全ての人の可能性を拓いていく

 

遂に発売されましたね!待望の京極夏彦御大の百鬼夜行シリーズ17年ぶりの最新刊!

 

当然に僕は発売日の当日に入手しております。

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さて、以前にも実は若干触れていますが…妖怪というのは元来は現象であり、「〜があった」と記述していたものを、人々が理解しやすいように存在という認識に変わり、「〜がいた」と記述されるようになったとかならないとか…。

 

と、無理矢理な導入ですが、今回はインプロにおけるプレイヤーの現象(というか状態?)について、ちょっと書いてみようかと思います。

 

キースのこの本には…

 

こんな感じで、プレイヤーのタイプとして、以下の記述があります(へちゃっぷりん拙訳)。

Types of Player(プレイヤーのタイプ)

・「ブリッジマスター」は、一歩ですぐに到達できた目的地への「橋」を築く。
・「ブルドーザー」は、無頓着であるいは知らないうちに他のプレイヤーのアイデアやシーンを踏み潰す。
・「ディレクター」はすべての決定をしたがる。他のインプロバイザーに指示を出し、批評する(舞台上でこれを行うのもいれば、控え室でするのもいる)。
~中略~
・「ギャグスター」、「グリブスター」、「パッセンジャー」は役立つことがあるが、「ブリッジマスター」、「ブルドーザー」、「ディレクター」、「ダラー」、「ヒステリック」、「シャイナー」は厄介になりうる。


最高のインプロバイザーでさえ、動揺すると「タイプ」に戻ることがある。

(※太字部分については後述)

 

と同時に、僕のお勧めするこの本にも(なんでお勧めかというと、この本はキースの考え方をベースにしてはいるものの、キースのすべてを肯定するものではない、と書かれていて、「なぜ彼らは違う意見を持っているのか」を、各該当箇所においてその明確が理由に記載されており、その内容に僕としてはある種の納得性を感じるからです)

 

以下のようにプレイヤーのタイプのようなリスト状の記述があります(へちゃっぷりん拙訳)。

【Wimps】(意気地なし)

症状:このインプロバイザーは、進行中のシーンに入るのを嫌がり、シーンに入った後もオファーに応じるを嫌がる。しばしばとんでもなく弱気(意気地なし)弱虫になり、非常にゆっくりとシーンを演じ、他のインプロバイザーがリードしてくれるのを待つ。~略~

診断:このインプロバイザーは、自分のアイデアには価値があるという確信に欠けていて、選択は慎重に検討されなけれらばならないと信じている。~略~

治療法:このインプロバイザーは、安全で協力的な雰囲気の中に置かれた後に、素早く自発的に演じることが求められるエクササイズをさせられるべきである ~略~

※この他、「Joker」や「Yes Man]など、この本には合計6種類の記述がありますが、紙面の都合上ここでは記載しません。

 

ここで注目したいのは、このリストには

・症状

・診断

・治療法

という項目が挙げられていることです。

 

これはつまり、このリストは、プレイヤーの”タイプ”というよりは、一時的な”状態(症状)”であり、それは”診断”により判断がなされ、それに対する”治療法”もあるということになります。

 

現に、この本では、こうした症状が列記された後に

このリストは包括的なものではないが、私たちが遭遇した多くの問題をカバーしている。
このリストはタイプのリストとしてではなく、振る舞い(ビヘイビア)のリストとして読むべきである。
人によっては、短期あるいは長期にわたり、一つのタイプから別のタイプへ移行していったり、複数のタイプが同時に発現することもある。
私たちは教師として、誰もが即興でプレイできるという前提で話を始める。
人によっては、演技力が乏しかったり、身体の柔軟性が少なかったり、スピーチが得意でなかったり、あきらめがちだったりするかもしれない。
しかし私たちは、その人たちも―共演者と共に物語を語るために力強い選択をすることができる―という前提で始め、何によって彼らが歩みを止めているのか明らかにし、優しくその道筋から取り除くように試みる。

 

という記述があります。

となると、このリストの症状は、不変的なものではなく、むしろ一時的な振る舞い(症状)としての現象/状態である、と理解した方が良さそうです。

 

※先に挙げたキースの著作の内容も、太字部分に注目してもらうと、同様のことが示唆されていることが汲み取れます。

 

さて、上記の太字部分が、このポストの本題なのですが(いつも前置きが長い…)インプロの指導者としては、症状を適切に診断し、治療法を適切に処することが肝要になってくると僕は考えています(し、この本にもそのように記載されています)

 

それによって、誰しもが素晴らしいプレイヤーになる可能性を持っているわけです(と、少なくとも僕は信じています)

 

では、それをどのようにするかというと、これはやはり究極的には経験則にはなってきてしまいますが、当blogでは何度も出てきている「Listen」によって、診断をするわけです(それまでに膨大なケースを目の当たりにしていることで、診断の精度が高まるのは言わずもがなですね)。

 

で、診断した後に、どういった治療法を行うかというと、この本での一番のお勧めは「サイドコーチ」*1となっています。

 

なお、サイドコーチには熟練の妙技が必要とされ、如何にタイミング良く/簡潔な言葉で/受け取りやすいトーンによって、その時のそのプレイヤーにとって最適なことを伝えられるか、が肝になってきます。

 

サイドコーチの質によって、そのプレイヤーが伸び伸びと創造性を発揮して、心地よくプレイが出来るか、はたまた逆に余計にぎこちなくなって、やりづらさを感じるかが、大きく分かれてくることも珍しくありません。

 

※この書籍には、サイドコーチの代替案として「シーンが終わるまで待ってコメントをする」/「シーンを途中で止めて問題点を検討し、その後に止めた処からシーンをしーんを再開する」も挙がっていますが、最も望ましいのはサイドコーチとされています。

 

そしてこのサイドコーチこそは、対象の症状(現象/状態)を見極め、適切な時機と順序と内容と量で情報を提示することにより、その症状から解き放つという、まさに陰陽師が行う憑物落しと同質のものと僕は考えたりしています。

 

すごく余談ですが、陰陽師に興味のある方はこの本なんかは入門編としてお勧めです

 

僭越ながら、僕のインプロのワークショップを贔屓にしてくれている方々にはしばしば

 

「へちゃのインプロのワークショップの大きな特色として、サイドコーチが絶妙だよね。なんか可能性が拓かれていくような不思議な感覚があって気持ちいいのよ。自分はインプロが上手いんじゃないかって勘違いしちゃう(笑)」

 

といったことを言っていただくことがあります。

 

(あとは「起きていたことのポイントを掴んで、それを素人にも分かるように言語化する力もスゴイ」という声も多いです。あと「よくしゃべるよね」とも…)

 

こうしたことを言っていただく度に、僕は秘かに(「この世には不思議なことなど何もないのだよ、○○君」)と内心でつぶやきつつ、現代のインプロ陰陽師になった気になって、ほくそ笑んでいます。

 

ということで、不定期ではありますが、今後のblogのテーマとして、インプロ(の主にパフォーマンス)をする際の、呪文もとい諺のような(インプロバーブ)フレーズをご紹介しつつ、ちょっとしたコツみたいなものもシリーズ的にご紹介していけたらなと愚考する次第です。

 

御行為奉(おんぎょうしたてまつる)

*1:プレイの最中に観測者として声掛けをすること。プレイヤーはプレイを止めることなく、その声掛けを取り入れてプレイをする