場の歌を聴け 〜Agreement(合意)の詳細と僕のこだわり〜
前回のポスト(↓)では
軽く触れた「Agreement(合意)」ですが、今回はもう少し詳しく見ていこうと思います。
前回に挙げた3つのポイントとしては、
- Agreementは状況に対して合意すること
- プレイヤー(演者)間でAgreementがされていれば、キャラクター間でNoをしてもOK
- ”Listen to the music, as well as the words.”
がありました。
今回は、僕が「Agreement(合意)」の内容を意訳/抄訳しながら、コメントを差し挟む形式で、詳細を見ていきましょう。
(あ、参照書籍はこちら)
ここから意訳/抄訳とコメント
まずは、インプロで「ルール」とされている?ものの(ここではYes, andやAgreementかな?)筆者の考え方からご紹介します。
私は自分のやり方で物事をやってほしいファシストではないので、ルールを教えることはありません。私が教えるルールというものは、(インプロという)芸術形態がどうすれば上手く行くかを理解するための土台となるものです。
ステージで上手く行く技術が分かれば、もうルールとしては考えなくなります。単にどうすれば良い即興演技者になるかが分かるだけです。
ここで「ルール」という言葉を「道具」という言葉に置き換えてみましょう。ステージでの即興演技を成功させるための道具の1つが、同意です。
とあります。
まあ、つまり「ルール」(とされるもの)は使いようってことでしょうか?
また「道具(tool)」という意味合いからは、使い慣れる必要も含まれているように感じます。使い慣れれば便利なものとなるわけです。
そして、その一つとして挙げられているのが「合意」となります。
つづいて、
状況への同意は、プレイヤー(演者)たちがシーン内での関係性を見つけるのに役立ちます。
もし同意という道具がなければ、争いになり、シーンは進展しません。(その結果)舞台では何も面白いことが起こりません。
上手くやりたければ、常に同意という道具を使う必要があります。
それがルールだからではなく、ゲームがそのように機能するからです。
とあります。
ここで「関係性」という言葉が出てきて、これはインプロにおいて(というか演劇、のみならず日常においても?)重要な要素なのですが、少しテーマからズレるのでここでは一旦スルーします(どこかでまた触れると思います。いやむしろ触れないといけないほど重要な項目です)。
あとは書いてあるまんまで、どれも重要なのですが、特に重要だと思われるのは最後の部分で、つまりは「ルール」だから「守らないといけない決まりごと」なのではなく、「ゲーム」(ここではインプロ、あるいはそのシーンと思われます)の仕組み自体がそうなっているので、それナシではそもそも成立しない(は言い過ぎ?)ということが述べられていると解しました。
つづいて、
もし相手のプレイヤー(演者)に「君は私の父親だ」と言ったなら、彼はあなたの父親なのです。
自分のアイデアを否定されるのは楽しくありません。
私たちの仕事は、お互いのアイデアを尊重することです。
とあります。
先にポイントとして、
- プレイヤー(演者)間でAgreementがされていれば、キャラクター間でNoをしてもOK
と書いたので、少し「アレ?」と思う方がいるかもしれません(いない?)。
しかしその後に続けて「アイデアが否定されるのは楽しくない」ということと「お互いのアイデアを尊重すること」が書いてあるのがこの本のニクいところです。
というのは、確かに「プレイヤー(演者)間でAgreementがされていれば(このシーンがどんなシーンでお互いが誰と誰で、それぞれが互いをどう思っているか、などが共有されていれば)、キャラクター間でNoをしても」シーン自体は成立するし、進展もすることがままあります。
が、そもそも相手のアイデアを不用意に否定することもない(否定されて嬉しい人はあんまりいないと思いますし、だいたいシーンが不必要に複雑になりがちです。※ただし、そのキャラクターの生理として否定する場合は別です)ですし、
さらに重要なのは、その行為が「お互いのアイデアを尊重」することから外れることが多いということです。
またどこかで扱うと思いますが、インプロをする際には(というかどこでも?)「信頼する/される」ことはとても大事になってきます。
そして、「信頼する/される」には、サポート(相手を支持する)という裏打ちが非常に大きな比重を占めていると考えています。
すんごくサポートしてくれて「この共演者はどんなことでもYESしよう(オファーを拾おう)としてくれる」という感覚の安心感といったら、ありません。
そうした共演者だと「こんなのどうせ伝わらないよな?」とか「これはちょっと分かりづらいよな?」とか「こんなんしたら引かれるかな?」と思って、オファーを躊躇する、ということがどんどんなくなっていきます。
となると、普段よりも、より伸び伸びと表現することができて、何処までも一緒に行ける気がしてきます。
お互いがそういう状態になると、より興味深く、挑戦的で、意義深いシーンになっていくことが多くあります。
なので、Noしてもよい、とはいっても、できることなら(特段の理由がなければ)YESをして行きたいものです。
さらに、特に初心者では、おそらく最初の慣れないうちは「これはプレイヤー(演者)としては相手の意図にYESしている(Agreementしている)、けどキャラクターとしてはNoすべきだ/したい」などの判断をしている余裕はないと思われますし
仮にその余裕があったとしても、えてしてNoすることの方が簡単(気が楽)で(これはざっくりいうと自分が現状に留まることができて、つまり先の未知に進まなくてよくなるため)
逆にYESをすると、ANDによって更なるアイデアを出したり、YESした正当化をしないとシーンが成立しなかったりで、人によっては負荷がかかったりしますが、
「ここでどうすればYES(して、かつAND)できるか」というのは創意工夫のしどころですし、
最初は不格好でもいいから「どんなものもYESしてみよう」として挑んでいると、少しづつかも知れませんが、どんどんと自分がYES(かつAND)できる幅が広がってきます。
いわゆる「YES AND筋」がもりもりとついてくるわけです。
そうなると、インプロすることがどんどん面白くなってくるし、自分に自信がついてくるという好循環が生まれてきます(少なくとも僕はそうでした)。
さらに共演者からは「こいつとやるときの安心感パネェわ」となり、信頼も得ることができていいこと尽くしです。
※ここは指導者によっては「自分がYESしたくなかったらYESしなくていい」とか、もっというと「くだらないオファーにまでYESしていると、どんどんシーンがくだらなくなるから、しなくていい」としているところもあるようで、それはそれぞれの指導者の考え方があると思うので、一概にどうこうということはないと思います。
例えば前者は「闇雲にYESばかりしていると自分が本当はどうしたいのかが薄れてくるのでそれを呼び覚ます」という意図があると思いますし、それはそれで納得できるところだからです。(後者はくだらないオファーとか判断している奴がくだらなくて、どんなオファーだってYes, andの仕方によっては、素晴らしいオファーになる可能性を秘めているし、そっちを鍛えるように指導しろよ。その指導ができない指導者のお前こそがくだらねえよ!とマジで思います)
と、ちょっと僕のこだわりどころなので、話が少しずれて長くなりましたが、またAgreementの記述に戻ると
実際には、私たちが同意しているのは、シーン(場面)における状況です。
他所でインプロを学んできた受講生たちは、この点で混乱することがよくあります。
同意の概念は、シーンで言われたことにすべて同意しなければならないと思っているようですが、それは誤解です。
私たちはあなたに自己の誠実さ(integrity)を犠牲にしてステージ上で言われたことにすべて「YES」と言うよう求めているわけではありません。
とあります。
ここでいう「シーンにおける状況」というのは「ここが何処で、誰と誰が、何をしている/しようとしている(互いをどう思っている)シーンなのか」ということと思われます。
それに対して合意は行われるものだということです。
「シーンで言われたことにすべて」だと思うと混乱するというのは、私がインプロを始めたばかりの頃は、頻繁に体験していたことなので、非常によくわかります(笑)
特に、安易にYESばかりしていると、キャラクターとしての一貫性がなくなり、どんなキャラクターなのか(/何を考えているのか)が分からなくなってしまう、というのが良く起こっていました(今思えば、ANDによるキャラクターの一貫性を保つ正当化力が足りなかったのかもしれませんが、それにしても限度があるとも思います)。*1
ここにある「自己の誠実さ(integrity)」というは、このキャラクターの一貫性も含まれてなくもないかもしれませんが、どちらかというと「(その状況にある、役としての)自分が本当にそう感じて/思っているのか/反応するのか」ということだと思います。よく「Honesty(誠実さ)」という単語でこの本や他の主に米国系のインプロの書籍に登場してくるものと近しい意味だと解しました。ビリー・ジョエルの「Honesty」は名曲ですね。
また、もっと言えば、シーンにおける状況に合意するというのは、つまりは
私たちが同意するのは、相手のプレイヤー(演者)が求めていることを提供することであり、それは「No」と言うことに同意することを意味することもあります。
ということで「相手のプレイヤー(演者)が求めていること」を提供することがAgreementであり、
以下に、”「No」と言うことに同意することを意味する”の例が出てきますので見てみましょう。
いわく
例えば、私が以前ステージ上でおこなったシーンでは、「父親」である共演者を身体的には恐れながら、口頭では食べ物を懇願しました。
このオファーにより、私は彼に対して「意地悪で虐待的な父親であってほしい」と伝えていました。
彼はそれに同意し「今日は食べ物はない。ケージに戻れ」と返してきました。
これは適切な反応でした。
(ところが)これが初心者の即興演技者を混乱させるのです。
なぜこれが適切なのでしょうか?
私は食べ物を求め、彼はそれを断ったのに。
これは対立ではないのですか?…いいえ、同意です。
(父親という)キャラクターとしては「No」と言ったけれど、プレイヤー(演者)は意地悪で虐待的な父親である、という状況に同意していますから。
ということです。
これは「プレイヤー(演者)間でAgreementがされていて、キャラクター間でNoをする」の分かりやすい例ですね。
ちなみに、このことに関しては、過去にインプロの洋書に書いてあること(主にインプロで重要とされる概念など)を翻訳しながら、僕の考えもコメントするというスタイル(つまりこのポストと同じ?)で私が作っていた動画集の中でも触れていますので、良かったらご笑覧ください。
どうやらこのblogはYoutubeを挿入できるっぽいので、この際なので掲載しておきます。それぞれ3~4分程度となります。再生速度1.5倍以上推奨。なお、ここでいうインプロsalonの活動をどうするかは現在検討中です。
改めて見返してみたところ…「このポストと同じで相変わらず、考えがあっちゃこっちゃいって、いろんなことを一気に言いたがるなぁ…」と感じました。
これもいい機会なので、今後はちょこちょこ、この動画集のことも、例えばテーマごとにとかで、いま改めて見てみての所感を添えて、ご紹介するポストも書いていこうかな…。
書くより話す方が楽だしノれるから、協力してくれる人が見つかったら、まだ動画も作ってみようかしら…。
ちなみに、その際の参考書籍はこちら
と、唐突に宣伝のようなものを挟みましたが、気を取り直して、続きを見ますと
私たちは言葉だけに惑わされず、プレイヤー(演者)が何を求めているのかを読み取ることを学ばなければなりません。
デルはよく「言葉だけでなく音楽にも耳を傾けなさい(Listen to the music as well as the words.)」と言っていました。
だからこそ私たちはシーンをゆっくり進めます。
言葉の裏にある意味を読み取る時間を取らなければなりません。
私たちは表面上はそう見える/取れることとは違うことを、しばしば言うものです。
とあります。
文字面だけの意味にとらわれず、その意味するところ(場合によって意図まで)をつかむ、というはおそらく日常では、なんとなくしている(少なくとも、つもりな)人が多いかと思いますが、それはインプロにおいても同様です。
言われてみれば当たり前かと思いますが、YES ANDを表層的に捉えてしまうと、この当たり前が分からなくなってしまう人も多く見受けられるので、ここは今一度、しつこいですが強調したいところです。
あるいは日常でも、これを心がけているけども、いまいち上手く行かないなぁ…なんて人には、インプロは良い試行錯誤/予行演習の仕組みかも知れませんね?
(僕がこれが出来ているかの質問は一切受け付けません)
そしてこれを「Listen to the music as well as the words.」なんて、お洒落に表現するところは個人的に痺れます…。
あえてこれを言語化するのも野暮な気がしますが、ここでいうmusic(音楽)とは(やや拡大解釈な気もしますが)「相手の表情/目線/感情/ボディランゲージ/声の調子/間/エネルギーなどなど、場の持つ雰囲気、相手との間に流れるバイブス、テンション、温かみ、et cetera」≒「そのとき、その場にある、ありとあらゆる情報」に相当します。
また、この「Listen」自体が、インプロでは重要な項目になっているのですが、なんとなく見過ごされがちな気もするので、ここで少し触れておきます。
そもそもYES(あるいはNO)しようにも、どんなオファー(情報の提示/が存在)がされているかつかむ(≒Listen)ことが出来なけば、元も子もありませんから。
以下の書籍は、僕がいつか為したいと思っている「2人で何の提案もないところから、いきなりお芝居を初めて、めちゃくちゃ見応えのある物語を演じる」という伝説的なデュオのものですが
この中に「Listening」という項目があり、そこでは
ステージ上で相手を"Listening"することを妨げる障害を取り除くことが重要だと考えています:
とあり、その障害として
• ビビっている
• シーンがどのように進むかの思い込みがある(先読みしている)
• 面白いことを言ったりすることに考えを巡らせている(この場合には、まったく聴けない)
• 部屋にあまりにも多くの騒音がある
が挙げられています。
これらについても、今後、機会を見て考えていきたいです。
などと言っていると、思いのほか長いポストになってしまったので、この辺で〆ようと思います。
この章では他にも
- 「スローコメディ」や、それに関連して「知性を尽くすこと」
- そのために「最初の考えを捨てる」こと(これはデルの特徴でキース・ジョンストンとは大きく異なるように見える部分と思います)
- また「サポート」(ここではミックの(?)「Take care of yourself (first)」のことも絡めて彼らの考え方の記述があります※僕の好きなフレーズもあります)
など、まだまだ重要で、僕が語りたくて知って欲しいことが満載なので、これも機会を見てご紹介していきたいと思います。
最後に、おさらいとして、Agreementの項目の最後のフレーズを確認して終わりたいと思います。
同意とは、キャラクターではなく、プレイヤー(演者)に対してするものである
*1:但し先ほど述べたなるべくYESしようとする効用も忘れたくないものです。