台所理論(Yes,andとAgreement)
今回は、インプロに少しでも触れたことのある人なら、ほぼ全員が耳にするであろう「YES AND」についてです。
といっても「YES AND」の詳細な概念は、実はけっこう疑義の生じるところで、インプロを知り始めの頃は「なるほど、こうやってインプロは為されていくのか!」と思う人が多い一方で
少しインプロに深入りしてくると「あれ?これってYES ANDなのかな?」とか解釈が人によってブレが生じ/不明瞭になってきたり、場合によっては「それってYES ANDしてなくない?ダメダメ!」とか言い出す人が出てきたりと、なかなか扱いに困ったりしてきて
さながら、生まれた当初は愛おしくて仕方なかった赤ちゃんが反抗期を迎えていくかのようです。その意味では、あなたの中での「YES AND」の成長の変遷が、あなたのインプロがすくすくと育っている証左となっていると言っても良いかどうかは、公式には子をなしたことのない僕には分りません…(迷走しだしたな)
とまあ、深みにハマると厄介になってくるので、それはそれとして別の機会にお伝えするとして、ここでは一旦はシンプルに
「相手(や場)から提示されている情報*1を受け取り(=YES)、それに対して今度は自分から(言葉や行動などで)*2情報を加える(=AND)」
としておきましょう。
※これをお互いに繰り返していくことによって、状況やら登場人物の特徴やらその関係性やらが詳しくなっていったり、(それに寄ったり寄らなかったりで)場面が進んでいったりするわけですが、この辺の話はまたお話しします。
で、その「YES AND」が如何にして生まれたのかというエピソードが実はこの本に載っていたりするのは、あまり知られてないようです(諸説あるという話もありますが…)。
この本の第6章は「The Kitchen Rules」となっており、なんでこんなタイトルかというと「YES AND」がキッチンで生まれたというエピソードから始まるからです。
ざっくりいうと…(以下、僕の意訳/抄訳)
ある公演後に(この本に頻繁に出てくる”インプロのグル”と称される)デル・クローズとその仲間たちがとある仲間のアパートのキッチンで*3
『なんで今日はうまくいかんかったんやろ?』と振り返りをしてたときに、デルが『そりゃあ、お前さん、あれだよ。例えば、あんたが「タイヤがパンクした」って言ったから、オイラが「修理するからジャッキをくれ」って言ったら、あんたは突っかかってきたけど、あんときに「はい、そんで、これスペアタイヤね(原文:yes and here's the spare)」って、やってりゃあ、うまくやれてたろうよ』と語り
それを聞いて、そこにいたみんなは場面(シーン)を進めるには争うのを止める必要があったことに同意して、そこから『The "Yes and" theory』(YES AND理論(?))が生まれたとのことです。
それからというもの、デルはパフォーマンスを分析し、適切な問いかけによって、どうすると上手くいったり(いかなかったり)するのかを解き明かす方法があることに気づき、パフォーマーたちを適切な方向に導く方法論を、開発し始めたんだとさ(めでたしめでたし)。
で、なんか話が終わったみたいになってますが…
こんな感じで「YES AND」は産声を上げたと書かれています。意外とこの話は日本では広まってないと思われますので、ぜひ「インプロの「YES AND」ってどうやって生まれたか知ってる?」ってドヤってください。今からあなたもインプロ博士になってモテモテになること請け合いです。
さらに、その後にこの章では「Agreement」(合意)という項目が続きます。
そして、この「Agreement」に書かれていることが分かると、冒頭に述べた「YES AND」の扱い方が一歩進むこと火の如しなので、次回はこの「Agreement」について、見ていこうと思いますが、その前にちょっとだけ先出しで、僕の観点でポイントを3つに絞ってご紹介しておくと
- Agreementは状況に対して合意すること
- プレイヤー(演者)間でAgreementがされていれば、キャラクター間でNoをしてもOK
- ”Listen to the music, as well as the words.”
になろうかと思います。
また、これ以降でも、上記のデルの方法論(というかその後のセカンドシティ系のものを含めて)など、僕が知って欲しい(けどあんまり日本では広まってないと思われる)インプロの概念や哲学もどんどんご紹介していければと思っていますので、こうご期待!